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大阪地方裁判所 昭和54年(む)551号 決定

本籍

京都市伏見区深草小久保町一二一番地

住居

同市山科区御陵鴨戸町四〇の一

コーポみくら一階一号

調理士

被請求人

魚住邦雄

昭和二四年六月四日生

右の者に対し、大阪地方検察庁検察官検事谷山純一から刑執行猶予言渡取消の請求があつたので、当該判所は、次のとおり決定する。

主文

一  大阪地方裁判所が昭和五一年五月一七日被請求人に対し道路交通法違反被告事件についてなした刑の執行猶予(保護観察付)の言渡及び

二  京都地方裁判所が昭和五〇年一二月五日被請求人に対し恐喝、傷害被告事件についてなした刑の執行猶予の言渡は、いずれもこれを取消す。

理由

一  昭和五四年(む)第五五一号事件(主文一の刑執行猶予の言渡取消請求)について

1  検察官が本件刑執行猶予言渡の取消の事由として主張する事実は、別紙記載のとおりである。

2  検察官提出の各資料を総合すると、別紙記載中一ないし三の各事実を認めることができる。

右認定の各事実によれば、被請求人が執行猶予者保護観察法五条一号所定の遵守事項を遵守しなかつたことが明らかであり、かつ、その情状は重いと認められる。

3  よつて、刑法二六条の二第二号により大阪地方裁判所が昭和五一年五月一七日になした刑執行猶予の言渡を取消すのが相当である。

二  昭和五四年(む)第五五二号事件(主文二の刑執行猶予の言渡取消請求)について

1  検察官が本件刑執行猶予言渡の取消の事由として主張する理由は、被請求人は京都地方裁判所で昭和五〇年一二月五日恐喝、傷害被告事件につき懲役一年六月、四年間執行猶予の判決を受け(同月二〇日確定)、現在執行猶予期間中のところ、前記一のとおり別件の刑執行猶予言渡の取消の請求をしたから本件執行猶予言渡についても刑法二六条の三によりあわせてその取消を求めるものであるところ、前記一のとおりその請求は理由があるので、同条により京都地方裁判所が昭和五〇年一二月五日になした本件刑の執行猶予の言渡についてもこれを取消すのが相当である。

三  よつて主文のとおり決定する。

(別紙)

一 被請求人は、昭和五一年五月一七日大阪地方裁判所において、道路交通法違反により、懲役参月四年間保護観察付刑執行猶予の言い渡しを受け、同判決は、同年六月一日確定した。

被請求人は、同年六月八日京都保護観察所に出頭して執行猶予者保護観察法第五条所定の遵守事項及び右遵守事項を守るための注意事項として

1 今後絶対に無免許運転をしないこと

2 よく考えて生活し、軽はずみなことをしないこと

3 毎日すすんで受持ちの保護司をたずねて生活の様子を話し、その指導を受けること

などの指示を受け、被請求人は、右遵守事項を守ることを誓約した。またその住居を京都市右京区西院日照町六六ー六五ウエストハイマンシヨン西院四〇一号と届け出た。

被請求人は、右判決が確定した同年六月一日から京都保護観察所の保護観察下に入つたものである。

二 しかるに、被請求人は、執行猶予者保護観察法第五条第一号に定められた遵守事項に違背し、保護観察の期間中次のとおり再犯を犯した。

すなわち

1 公安委員会の運転免許を受けないで、同五二年七月一六日午後六時一四分ころ、京都市南区上鳥羽上調子町国道一号線市道五五号線上る付近道路において、普通乗用自動車を運転した

2 自動車運転の業務に従事するものであるが、普通乗用自動車を運転し、同五三年一月二一日午後五時五〇分ころ、同市右京区西院六反田町三五番地先の交通整理の行なわれていない丁字型交差点を時速六〇キロメートルで北進中、同交差点の東方道路を西進し同交差点を北方に向け右折進行して来た安田正次(当時五三年)操縦の自転車を右前方約二六・六メートルの地点に認めたが、かかる場合自動車運転者としては、同車が自車の進路上にそのまま進行して来ることが予測されたのであるから、直ちに警音器を吹鳴して警告を与えるとともに減速徐行をして同車の動静を注視し、進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同車が自車に気付き停止してくれるものと軽信し、同車の動静を注視しないまま漫然と前記速度で進行した過失により、同車が引き続き自車進路上に進行して来るのを右前方約一八・九メートルに接近して始めて気付き、あわてて右に転把するとともに急制動の措置をとつたが及ばず、同車左側面部に自車右前部を衝突させて同人を路上に転倒させ、よつて同人に対し加療約二週間を要する頭部外傷Ⅰ型、後頭部打撲皮下血腫等の傷害を負わせた

3 公安委員会の運転免許を受けないで、前記日時場所において前記自動車を運転した

4 前記2記載のとおり人身傷害を伴う交通事故を起こしたのに直ちに運転を中止し負傷者を救護する等法令に定める必要な措置を講ぜず、かつ、事故発生の日時場所等法令に定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつた

5 公安委員会の運転免許を受けないで、同年二月一三日午前二時ころ、同市東山区五条通大和大路東入付近道路において、普通乗用自動車を運転した

右のとおり、被請求人は、保護観察の期間中は、特に自重自戒して更正に努めなければならないのにかかわらず同種犯行を重ね善行を保持しなかつたものである。

前記所為について本年五月二二日京都地方裁判所において懲役一〇月に処せられたが、同年六月一日控訴を申し立て、同事件は目下大阪高等裁判所に公判係属中である。

三 さらに、被請求人は、前記のとおり京都保護観察所に出頭した際執行猶予者保護観察法第五条所定の遵守事項とこれを遵守するための注意事項を誓約しながらこれに違背し、保護観察当初から担当保護司宅を訪問、連絡しないのみか、担当保護司、保護観察官の再三にわたる指示、注意にかかわらず指導、監督のための呼出しに全く応じなかつたほか、あらかじめ保護観察所の長に届け出ることなく、無断転居を繰り返したもので被請求人は保護観察による指導、監督を受けて自覚更正に努めようとする態度も意欲も全く認めることのできない状況である。

四 以上のとおり、その行状等からみて、被請求人には、改善更正が全く期待できないもので前記の所為は、執行猶予者保護観察法第五条所定の遵守事項に違背すること明白であり、かつ情状重い場合に該当すると認められるので保護観察所長の申し出に基づき本請求に及んだ次第である。

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